【D1 GRAND PRIX 25周年特別寄稿】松井有紀夫

ゼッケン100番台の自走参戦から始まった泥臭いD1挑戦。世界ロータリー「RE雨宮」の看板と重圧を背負い、松井有紀夫が追い続けるカッコいいドリフト

編集部への特別メッセージ

「D1 GRAND PRIX 25周年、心よりお祝い申し上げます。私がこの世界に足を踏み入れたのは、ビデオオプションで観た『全日本プロドリフト選手権』に強い衝撃を受けたことがきっかけでした。18歳で免許を取得したその日から、バイトに明け暮れて買った紫の86でドリフトの練習に打ち込み、とにかく走ることが楽しくて夢中になっていたあの頃の気持ちは、今も何一つ変わっていません。

現在、私は日本のチューニング界の生きる伝説である雨宮勇美さんひきいる『RE雨宮レーシング』の一員として、最高峰のD1グランプリに参戦させていただいています。伝統のロータリー4ローターエンジンと、雨宮FD3Sのポテンシャルを証明し続けること、そして自分を信じて支えてくれるチームやファンの皆様に勝利で恩返しをすることが、私の使命です。これからも『ドリフト=カッコいい』という理想を追い求め、熱い走りでサーキットを魅了し続けますので、温かい応援をよろしくお願いいたします。全日本プロドリフト選手権がぼくの出発点なので、本当におめでとうございます」

松井有紀夫

100台を超える参加者、ゼッケン100番台からの泥臭いスタート

今でこそD1グランプリのトップドライバーとして知られる松井有紀夫選手だが、その原点は決して華やかなものではなかった。

高校の自動車科を卒業後、ドリフトの練習資金と廃タイヤを手に入れるためにカー用品店に勤務。仕事とドリフトの両立に悩み、最終的にドリフトの道を選んで退社した後は、電気工事やクルマ屋さんのピット作業のアルバイトで食いつなぎながらエントリー費を捻出する泥臭い日々を送っていた。

2002年、当時ドリフト界最年少の23歳でD1ライセンスを取得し、デビューを果たした。当初のマシンは積載車に乗せられたワークスカーなどではなく、自身でハンドルを握ってサーキットまで走らせる「自走」参戦だった。

「100台以上いた参加者の中で、自分のゼッケンも100番。すぐ近くのピットには、同じようにゼッケン100番台で参戦していた川畑真人選手がいました。そこから川畑選手はいち早くワークス入りを果たし、プロ中のプロとして駆け上がっていった。あの背中を見て『自分も絶対にあそこに行くんだ』ともがき続けていました」

なかなかD1GPシリーズでは結果が出ず、一つ下のカテゴリー、ストリートリーガル(現在のLIGHTSシリーズ)に参戦するなど試行錯誤を繰り返す苦労人の時代。しかし、どんなに生活が苦しくても、D1で走れることそのものが嬉しく、充実感に満ち溢れていた。

輸入車初の快挙からRE雨宮との運命の出会いへ

愚直にドリフトと向き合い続けた松井選手に、転機が訪れる。ショップ「イルサロット」との出会いだ。同社に入社した松井は、輸入車であるBMW M3(E36)のD1車両製作に携わり、2007年には国内シリーズにおいて「輸入車初のポイント獲得(追走進出)」という快挙を達成。その独特の鋭い振り出しは後に「松井イリュージョン」と称され、2010年のエビスでは審査員全員満点(300点)を叩き出すなど、彼の真骨頂である“トップクラスの総合的マシンコントロール能力”は業界全体に強いインパクトを与えた。

その後、ナプレック、ギルドエヌワン、Rマジックといったチームで実績を積み重ね、2014年のエビスで悲願の優勝を達成。表彰式セレモニーで妻へプロポーズするという人生の大きな節目を迎えた松井に、さらなる運命の打診が下る。

それが、日本のチューニング界の重鎮・雨宮勇美率いる「RE雨宮」からのオファーだった。

ロータリーの聖地「RE雨宮」が放つ絶大な重圧と覚悟

RE雨宮といえば、全日本GT選手権(JGTC)やSUPER GTでも数々の伝説を打ち立ててきた、チューニング業界ナンバーワンの名門チームだ。代表の“アマさん”こと雨宮勇美氏は、今なお自ら毎日エンジンを組み、塗装を行う生粋の職人であり、モータースポーツ界の生きる伝説である。

その青いロータリーマシン「FD3S RX-7」のステアリングを任されるということは、ドライバーにとってこの上ない誉れであると同時に、想像を絶する重圧を背負うことを意味していた。

「RE雨宮の看板を背負って走るプレッシャーは、言葉では言い表せないほど巨大なものです。ファンや関係者が求めるのは『入賞は当たり前』『カッコよくて当たり前』『ベスト16は当たり前』というパフォーマンス。生半可な走りや結果は絶対に許されない。その重圧に押し潰されそうになる瞬間は何度もありました。」しかし、松井はそのプレッシャーから逃げることなく、正面から受け止めた。

2018年筑波での念願の移籍後初優勝、そして2019年の十勝ラウンドでは怒涛の2連勝を飾り、自己最高となるシリーズ2位を獲得。世界中のロータリーファンを熱狂させ、RE雨宮の強さを改めて証明してみせた。

すでに2JZ1000馬力全盛の時代に、ロータリーエンジンでシリーズ2位。この成績は、シリーズ優勝に匹敵する価値がある。時代に抗い、伝統のロータリーを守り抜く技術と技術者。

現在のD1グランプリは、大排気量V8エンジンや2JZエンジンに巨大なタービンを組み合わせ、1000馬力オーバーを叩き出すパワーゲームが主流となっている。その過酷なコンペティションの中で、RE雨宮は今もなお、基本骨格とエンジンをマツダ伝統のロータリー(RE)というスタンダードを守り抜いて参戦を続けている。

トルク重視のハイパワーマシンがひしめく中、ロータリー特有の高回転域のパワー特性とレスポンスを活かし切り、超高次元のドッグファイトを繰り広げるには、松井の精密機械のようなマシンコントロール技術が不可欠だ。そしてそれ以上に、マシンを支えるメカニックたちの凄絶な努力が存在する。

「レースウィーク以外も、チーフメカの工藤さんをはじめ、吉村さん、須釜さんたちが連日連夜、残業や過酷な作業に耐えながらマシンを最高の状態で送り出してくれています。工藤さんは凄腕メカニックでありながら、常にドライバーの気持ちを一番に考えてくれる最高のパートナーです。ダメだった時も決してドライバーのせいにせず、『チーム全体で強くなろう』と言ってくれる。だからこそ、私は走ることに100%集中できるし、このチームのために絶対に勝たなければいけないんです」

恩返し、悲願のシリーズチャンピオンへ

「自力でマシンを弄るのも好きですが、本当は走ることだけに専念したい。そんな環境を与えてくれている今の雨宮チームの体制は、ドライバーとして本当に幸せです。アマさん、工藤さんをはじめとするチーム、そしてロータリーを愛する世界中のファンへの最高の恩返しは、RE雨宮のFD3Sでシリーズチャンピオンを獲ること以外にありません」

ゼッケン100番台の自走マシンから始まった松井有紀夫のストーリー。
泥臭くもがき、苦難を乗り越えて磨き上げたその腕と、伝統のロータリーサウンドを響かせる青いRX-7。大切な家族の応援を胸に、苦労人・松井有紀夫は今、名門の重圧を最高の力に変え、再び頂点へと続くアクセルを踏み込む。

【松井 有紀夫 プロフィール】

名前:Yukio MATSUI
松井 有紀夫
ニックネーム:ユキオ、ユキリン、ガルル、マツイ
出身地:東京都
誕生日:1979年1月26日(47歳)
血液型:O型
職歴:工業高校自動車科卒業
オートテック勤務を経て電気工事やピット作業のアルバイト。
イルサロット入社後、プロドライバーへの道を切り拓く。
チーム遍歴:プライベーター
イルサロット(BMW M3 E36)
ナプレック(15顔シルエイティ)
ギルドエヌワン(S15)
Rマジック(FD3S)
RE雨宮(FD3S)
ストリートリーガル:リミットライン180SX、ギルドエヌワンセリプラ、IBスタイル S14
主な戦歴・ハイライト:2002年: 当時最年少(23歳)でD1ライセンス獲得。
エビスサーキットでD1GPデビュー。
2007年: BMW M3(E36)を駆り、D1GP国内シリーズにおいて輸入車初のポイント獲得(追走進出)を達成。
2009年: 岡山国際サーキットの単走にて独特の鋭い振り出しが「松井イリュージョン」と評される。
2010年:エビスサーキットの単走で審査員全員満点(300点)を獲得。
2012年:開幕戦 TOKYO DRIFT IN ODAIBA にて単走優勝。
2014年:第4戦エビスでキャリア初の総合優勝。
勝利直後の表彰式セレモニーにてプロポーズ。
2018年:第5戦筑波にて、RE雨宮移籍後初優勝を飾る。
2019年:十勝ラウンドで圧巻の2連勝を達成し、自己最高となるシリーズ2位を獲得。
2021年:オートポリスで優勝、シリーズ6位。
2026 :Team雨宮マツキヨMINIGTシバタイヤ マシンスペック&チーム体制

【2026年 D1GPマシンスペック】

車両名:Team 雨宮マツキヨMINIGTシバタイヤ RX-7
ベース車両:マツダ RX-7(FD3S)
搭載エンジン:4ローター ペリフェラルポート+ターボ(ドライサンプ仕様)
最高出力:約800〜850ps
過給機:GCG G42 タービン
最大トルク:約80kg-m
排気系:RE雨宮 ワンオフSPLエキゾーストマニホールド / SPLマフラー
足回り:ブレーキ: ENDLESS / RE雨宮SPEC
メンテナンス: RE雨宮
チーム体制:総合監督: 雨宮 勇美
監督代行: 吉村 氏
チーフメカニック: 工藤 氏
エンジニア: 遠藤 氏
メカニック: 吉村 氏 / 須釜 氏
マネージャー: 窪木 氏

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